新しい教育の可能性、英語と留学

 一橋大学の石倉洋子先生と言えば、先のブログでもご紹介した黒川清先生と同様、世界中を飛び回りご活躍されており、ご専門の経営学を越えて「日本や世界を元気にする」ための様々な実践的・啓蒙的活動に精力的に取り組まれている方です。私もご著書、ブログ、ツイッターなどを通じて、日頃から色々と学ばせていただいています(私にとっての「ウェブで学ぶ」です)。
 その石倉先生が、ウェブで学ぶ」のご感想をご自身のブログに書いて下さりました。その中に、こんな一節がありました。

そしてインターネットは不特定多数無限大に信じられないほどの可能性をひらいています。グローバルな課題を考えることが最近多い中、長期的には世界を変える一番の原動力は新しい形の教育だという私の確信はここ数年どんどん強くなっています。このご本を読んで、教育の分野に、ウェブが活用されつつあり、それがとても大きな力になりそうだということを感じ、信じられないような可能性への扉が開かれつつある、2010年は「日本」におけるオープン・エデュケーション元年になる、という確信はさらに強まりました。


 「長期的には世界を変える一番の原動力は新しい形の教育だ」という考え方は、実に大切だと思います。石倉先生が言われているように、日本において2010年がオープンエデュケーション元年になれば、それはとても嬉しいことです。

 私は、グローバルな観点からは、2001年をオープンエデュケーション元年と考えたい、と常々思ってきました。講演などでも、よく2001年からの10年を「教育におけるOの10年」と呼んでいます。MITのオープンコースウェアを始め、2001年前後に幾つかのオープンエデュケーションのプロジェクトが立ち上がっているのですが、実は2001年を起点としたい大きな理由がもう一つあります。それは、2001年9月11日に起こった同時多発テロです。私は、この悲劇的な事件に対するリアクションが、(私自身も含め)特に欧米においてオープンエデュケーションの推進に積極的に関わってきた人々の潜在的な原動力の一部になっていたのではないか、と考えています。米欧に対する文化・政治・経済・宗教的な葛藤や憎悪が、飛躍的な進歩を遂げた「テクノロジーとネットワーク」の力を得て、このような破壊的結末と世界中の人々の深い悲しみをもたらし、それが21世紀の幕開けとなった。残された21世紀を「絶望の世紀」(もちろんテロだけでなく、世界的な問題は山積しています)にしないために、人々の希望と共に「テクノロジーとネットワーク」を最大限に活かせるものとして、オープンエデュケーションという「新しい形の教育」が予定調和的に台頭してきたのではないか、とすら私には思えるのです。ですからその意味でも、石倉先生の書かれた「長期的には世界を変える一番の原動力は新しい形の教育だ」という言葉は、とても重く感じられます。


 石倉先生は、英語を使えるようになることや留学の大切さについても、ご自身のご経験も踏まえて説かれています。

このご本を読むだけでなく、ここに出てくるウェブサイトを若い人たちに見てもらいたい、そしてどれだけ世界に豊富な知識資産が公開されているか、それを自分のものにするために現時点ではなぜ英語が必要か、を実感として持っていただきたいと思います。英語ができないだけで、これだけ広く世界にあり、刻々と更新されている知識資産を活用できない、とはあまりに悲しいことだと思います。(これまで道具としての英語を強調してきましたが、もっと強調すべきだ、と反省しました)。

何でもすぐやってみないと気がすまない、とか、いろいろあっても何とかなる、という「いい加減」ともいえる私の姿勢は、若い時にアメリカに留学する機会を持ったことから来ているのではないか、と思いました。と同時に、必ずしも米国でなくても良いですが、若い時に外国で生活してみることが大きなインパクトを実感する良い方法だと思いますし、だから、若い人にどんどん外にいってほしいという気持ちはさらに強くなりました。


 私も全く同感です。これまで「ウェブで学ぶ」に対する書評や感想を書いてくださった多くの方々のブログやツイッターでも、「英語」や「留学」については、賛否両論含め、様々な形で取り上げられています。「日本語 or 英語」「日本国内で就学 or 海外留学」のような対立軸を作れば、確かに議論は白熱するのでしょうが、「自分には無理。関係ない」と決めつけずに、まずは「日本語 and 英語」「日本国内で就学 and 海外留学」という融和的な考え方からスタートしてもいいのではないか、と思います。そして、その中から「世界をより良い場所にしたい」という志と気概を持った若者(精神的な若さを持った人も含め)が一人でも多く出てきてくれることを期待したい。さらには、梅田さんの言われるような「グローバル展開への強烈な意志」が、是非そこから生まれ育って欲しい。オープンエデュケーションは、そのための有効な手段であり触媒なのです。