東大の秋入学について

 東大が秋入学を検討していることについて、日本経済新聞が行った世論調査の結果(7月25日付)では、賛成32.1%、反対11.6%と賛成の方が多かったものの、「分からない、何とも言えない」と「ニュースを知らず関心がない」を合わせると56.4%だったとのことで、世間一般では戸惑っている人が多いようです。

 この調査結果が出る少し前に、大学研究家の山内太地さんからこの話題について電子メールで質問インタビューを受けました。私の回答の一部は、同氏が週刊東洋経済(7月30日号24ページ)に寄稿された記事の中でも紹介されていますが、私の回答全文に後から少し手を加えたものを以下に紹介します(3つの質問は、山内さんによるものです)。


質問1:東大の秋入学のニュースをどうお考えになりますか。

 秋入学という制度を取り入れるということ自体は、東大に限らず、日本の大学の国際化に向けては望ましい動きだと考えています。ただし現状では、日本国内の高校や企業との接続性(卒業・入学・入社のタイミングや選抜・採用方法など)などが問題となるので、これらの見直しも迫られることになるでしょう。
 東大が秋入学に移行すれば、話題性も含めて、日本の他大学や社会全体への変化促進のための刺激となるのは良いことだと思います。数は少ないが、既に春入学と秋入学の両方に対応している日本の大学もあるので、過渡期にはそのような対応をとってもいいでしょう。しかし、東大と言えども、入学時期だけを「世界標準」に合わせれば、それだけで優秀な学生や研究者が世界中から集まってくるわけではありません。全学を挙げて、本質的な教育・研究環境のレベルを「世界級」にするための継続的な努力が必要です。


質問2:東大は、世界から研究者・優秀な学生を集めるために秋入学に踏み切ると私(注:山内氏)は予想しているのですが、現状、世界の優秀な研究者が、日本ではなくアメリカを選んでいるという現状があるのでしょうか。

 一部の日本の大学や研究者が世界のトップレベルの研究を行っている分野を除いては、日本に比べ米欧や他の地域の優れた大学、また国策で自国の大学に優秀な研究者を厚遇で招き入れようとしている国々に負けていると思います。少なくともアメリカの高等教育界から見て、東大のブランドは、例えばアメリカのトップレベルの大学の(人材育成の実力を伴った)ブランドと比べ、それほど国際通用力が高くはない、というのが実感です。
 日本の特定の大学というよりは、むしろ日本の特定の研究者や研究室の実力に惹かれて、その分野の若手の研究者が外国から学びに来るという事例はありますが、おそらく「研究環境が整っていない」「外国人が日本の大学に研究者・教員として就職するのが難しい」等々の理由で、長期(3〜5年以上)に渡って留まるケースは少ないのではないでしょうか。


質問3:春入学は国際化で不利でしょうか。

 特に海外からの留学生の受け入れを考えた場合、もし日本の大学が海外の学生にとって非常に魅力的なのであれば、世界標準から外れた「春入学」という制度を維持しても、その不便さ・不都合さを乗り越えて海外から留学生が来てくれるのでしょうが、今の日本の大学にはそのような魅力があるとは言い難いのが現状です。この観点からは、不利と言えると思います。
 海外での就職に関しては、海外の企業は大学の新卒に対して一括採用をしている訳ではないので、春入学・卒業のままでも、日本の大学の卒業者にとってそれほど不利にはならないでしょう。


 以上が私の所感ですが、さて皆さんはどうお考えになりますか?