「減少し続ける日本人米国留学生」は、氷山の一角?

産経ニュース(6月12日付)より

「10年で4割近く減少 米国留学の日本人学生 日米会議」

 【ワシントン=佐々木類】日米両国の有識者が参加して米議会内で開催されていた日米教育文化交流会議は11日、大学やシンクタンクなどへの財政支援の強化を求める共同声明を発表し、2日間の日程を終えた。
 日本側委員長の槙原稔三菱商事相談役は会議終了後に発表した共同声明で「日米間の学者、学生間の交流が著しく減少している」と指摘、大学やシンクタンクなどへの財政支援を強化する必要性などを訴えた。
 会議では、日米双方の出席者が、英語教師の助手を外国から日本に招く「JETプログラム」が、民主党政権による事業仕分けの対象になっていることへの強い懸念を示した。
 日本からアメリカに留学する学生数は中国や韓国に比べて著しく減少。会議では、この10年で40%近く減少し、米国における留学生全体に占める日本人の割合は、13年前の10.1%から4.4%と著しく低下しているとの指摘があった。


 この類のニュースは、もはや日本国内では、「またか」という感じで受け流されているのかもしれませんが、やはり非常に深刻な問題だと思います。最近このような話を日本の若い大学生・大学院生・研究者とすると、「もう、アメリカから学ぶことはない」「最近は、アジアやヨーロッパの方が人気」などと言う人たちもいます。果たして、本当にそうなのでしょうか。


 私は、「アメリカの大学に行くこと」=「アメリカ人から学ぶこと」だとは思いません。アメリカの大学には、アジアやヨーロッパや世界中のその他の国々から、やる気に溢れた優秀な学生や研究者が大勢集まっているからです。これは、「教育立国」を目指してきたアメリカの「戦略」によるものです。その意味で、私は、「アメリカの大学で学ぶこと」=「世界の人々から学ぶこと」だと思っています。だから、そこに近づいていかなかったり、逃げ腰になったりするのは、やはり「世界と対峙しようとしない鎖国&内向きマインド」と言われても仕方がない。「世界一を目指すこと」を最初から諦めていては、二番どころか、三番にも四番にもなれない。そういう危機的な状況に、日本の大学界は瀕しています。


 「日本の高等教育は、独自の道を行けばよいから」と開き直って、海外との人材の交流がなくなれば、前回も書いたように、待っているのは、「ガラパゴス」ではなく「ツバル」の運命です。初等・中等教育とは異なり、21世紀の高等教育は、グローバル・ネットワークに積極的に参加できなければ、どこの国であっても発展は望めません。「日本人は優秀なのだから、内にこもっていても、時折、天才的な発見・ユニークな研究で世界をアッと言わせられればいい」などと考えているのであれば、国を挙げて懸命に教育立国を目指している多くの新興国や途上国に、今後十年の間に次々と追いつかれ追い抜かれていくことは確実です。


 「世界の高等教育のリーダーになりたい」のであれば、いわゆる「グローバルな頭脳循環」を活性化させるために、日本にも海外から学生や研究者を多く呼び込まなければ絶対にダメです。アメリカの大学を出てから、「JETプログラム」を利用して日本で英語を1〜2年教え、その後アメリカに戻り大学院へ進んだアメリカ人学生を何人も知っています。そういう人たちの多くは、どの分野にいても、「またいつか、一人前の研究者として日本へ行ってみたい」と言います。こういうグローバルな人的なネットワークづくりの大切さを、ほとんどの政治家は理解しているようには見えないし、国のトップにいながら、政治の世界においてもそのようなグローバルな人脈・人的ネットワークを持っておらず、また築こうともしていないから、今日本は「友人」であるはずの他の国々から憂慮されているのです。本当に、しっかりしてもらわないと困ります。

http://www.youtube.com/watch?v=b85bd2f_G48

 「JETプログラム」を事業仕分けの対象にすること自体が、日本の政治家の「グローバル時代における教育立国」に関するビジョンや見識の貧困と欠如を、如実に物語っているのでしょう。是非諦めることなく、志を共にする日本の研究者や学生の皆さんと一緒に「自分たちには何ができるか」について考え、提言し、行動し続けていきたいと思います。


追伸:昨年のBEATセミナーもその一貫です。
http://www.beatiii.jp/seminar/039.html